ロシア連邦国家安全保障戦略(第1章・第2章・第3章)


2015年12月31日のロシア連邦大統領令第683号により、新たな国家安全保障戦略が承認された。
2009年に承認された前バージョンを更新する、新たな国防・安全保障の指針である。
以下、その第1章、第2章、第3章の翻訳を掲載する。

第4章
第5-6章

ロシア連邦国家安全保障戦略

第1章 総則

  1. 本戦略は、ロシア連邦の国益及び戦略上の国家的優先課題、ロシア連邦の国家安全保障を強化し長期的将来にわたって国家の安定的成長を確保するための対内政策及び対外政策上の目的、課題及び施策を規定する戦略的計画の基本文書である。
  2. 本戦略の法的基礎を構成するのは、ロシア連邦憲法、2010年12月28日連邦法第390号「安全保障について」、2014年6月28日連邦法第172号「ロシア連邦における戦略的計画について」、その他の連邦法、ロシア連邦大統領の発出する法規犯的アクトである。
  3. 本戦略は、ロシア連邦政府機関、その他の政府機関及びロシア連邦構成主体の政府機関(以下、「政府機関」という。)、地方自治体の機関、市民社会の組織の努力を糾合し、ロシア連邦の国益及び戦略上の国家的優先課題を実現する上で好適な対内的・対外的環境を実現することを目的とする。
  4. 本戦略は、ロシア連邦の国家安全保障の確保に関する国家的政策を策定し、実現する際の基礎となる。
  5. 本戦略は、ロシア連邦の国家安全保障と国家の社会・経済的発展との間の分かち難い相互作用及び相互依存性を基礎とする。
  6. 本戦略で用いる基礎的な用語は次の通りである。
  • ロシア連邦の国家安全保障(以下、「国家安全保障」という。)とは、個人、社会及び国家が、内部及び外部の脅威から保護されている状態をいう。この際、ロシア連邦市民(以下、「市民」という。)が有する憲法上の権利及び自由の実現、その生活の十分な質及び水準、主権、独立、国家的及び地域的な領土的一体性、ロシア連邦の安定的な社会・経済的発展が確保されていなければならない。国家安全保障には、国防に加え、ロシア連邦憲法及びロシア連邦の法令が規定するあらゆる種類の安全保障が含まれる。特に、国家、社会、情報、環境、経済、輸送、エネルギー、人間の安全保障が中心的となる。
  • ロシア連邦の国益(以下、「国益」という。)とは、人、社会及び国家が保護され、安定的に発展するために、客観的な必要性が極めて高いものをいう。
  • 国家安全保障上の脅威とは、国益に障害をもたらす直接または間接の能力を形成する条件及び要因の総体をいう。
  • 国家安全保障の確保とは、政府機関及び地方自治体の機関が市民社会の組織と連携し、政治的、軍事的、組織的、社会・経済的、情報、法、その他の分野において国家安全保障公の脅威に対抗し、国益を充足するための施策を実現することをいう。
  • ロシア連邦の戦略上の国家的優先課題(以下、「戦略上の国家的優先課題」という。)とは、国家安全保障の確保に関する最重要の分野をいう。
  • 国家安全保障の確保のためのシステムとは、国家安全保障の確保の分野において国家政策を実施する政府機関、地方自治体の機関及びそれらの付属機関の集合体をいう。

第2章 現代の世界におけるロシア

    1. 国家安全保障の確保及びロシア連邦の社会・経済的発展の分野における国家政策は、戦略上の国家的優先課題の実現及び国益の効率的な保護を可能とする。現在、ロシア連邦には、経済的、軍事的及び精神的ポテンシャルをさらに強化し、形成されつつある多極世界においてそのその役割を高めるための安定的な基礎ができている。
    2. ロシアは主権、独立、国家的及び地域的な領土的一体性、在外同胞の権利保護を行う能力を実証した。最重要の国際問題の解決、軍事紛争の規制並びに戦略的安定性及び国際関係における国際法の支配の確保におけるロシア連邦の役割が高まった。
    3. ロシア経済は、世界の不安定な経済状況及び隣国がロシアに対して導入した経済制裁の中にあって、そのポテンシャルを保持・強化する能力を示した。
    4. 国民の健康増進に関する課題の解決については、肯定的な傾向が見られる。人口が自然増に転じ、平均寿命が増加した。
    5. 伝統的なロシアの精神的・道徳的価値観が復活しつつある。新たな世代の人々の間には、ロシアの歴史に対する正しい態度が生まれている。ロシアの自由と独立、人道主義、人種間の平和と協調、ロシア連邦の多民族的文化の統合、家族的・宗教的伝統の尊重、愛国心など、国家体制の基礎を成す一般的価値を中心として、市民社会の結束が起こっている。
    6. ロシアの強化は、複合的な相互作用の性格を有する、国家安全保障上の新たな脅威を前にして進んでいるものである。ロシア連邦が自律的な対内的・対外的政策を進めることにより、世界情勢における自らの支配を保持せんとする米国及びその同盟国との対立が生じている。彼らが進めているロシア抑止政策は、政治的、経済的、軍事的及び情報上の圧力をかけることを想定したものである。
    7. 世界秩序の新たな多極モデルの形成プロセスは、グローバル及び地域的な不安定性の増大を伴っている。世界の発展の不均衡、諸国間における富の水準の格差拡大、資源を巡る争い、資源市場へのアクセス、主要輸送ルートのコントロールに関する対立が先鋭化している。
      国家間の競合はいずれも、社会的発展の価値及びモデルに関する部分が多くを占める。この過程においては、世界の海洋及び北極における資源開発の主導権が大きな重要性を有している。国際的アリーナにおける影響力を巡る争いにおいては、政治的、社会・経済的、情報に関する全スペクトルの手段が動員される。特殊機関のポテンシャルがこれまでになく活発に活用されるようになっている。
    8. 国際関係においては、力のファクターが持つ役割は低下していない。攻撃兵器の強化及び近代化並びにその新型を開発及び配備しようとする意図は、グローバル安全保障システム及び軍備管理の領域における条約及び合意のシステムを弱体化させている。欧州・大西洋地域、ユーラシア地域、アジア太平洋地域においては、対等かつ不可分の安全保障原則は見られない。ロシアに隣接する地域では、軍事化と軍備競争の過程が発生している。
    9. 北大西洋条約機構(NATO)が軍事的ポテンシャルを強化し、国際法の規範に違反する形でそのグローバルな機能を拡大すること、同ブロック加盟国の軍事的活動の活発化、同盟のさらなる拡大、ロシアの国境に向けたその軍事的インフエアの接近は、国家安全保障上の脅威となっている。 欧州、アジア太平洋地域及び中東に米国のミサイル防衛システムのコンポーネントが配備されていること、「グローバル攻撃」概念が実際に実現されていること、精密誘導兵器による非核戦略システムが配備されていること、グローバル及び地域的安定性を助長しうる可能性は実質的に低下している。宇宙空間に兵器が配備される場合も同様である。
    10. 国際問題の解決に際して残っているブロック的なアプローチでは、現代における事象及び脅威のすべてのスペクトルに対抗することはできない。アフリカ及び中東諸国から欧州への難民流入の活発化は、欧州・大西洋地域においてNATO及び欧州連合を基礎として形成された地域的安全保障システムの無力さを示している。
    11. ユーラシア地域における統合過程に反対し、緊張の火種をつくる西側の立場は、ロシアの国益を実現するうえで否定的な影響力を示している。ウクライナにおける反憲法的な政権転覆に対する米国及び欧州連合の支援は、ウクライナ社会の深い分裂と武力紛争の勃発をもたらした。極右ナショナリストのイデオロギー強化、明らかな目的をもってウクライナ国民の中に作り出されたロシアに対する敵愾心、政府内の対立を力で解決することへのあからさまな期待、深刻な社会・経済危機は、ウクライナを欧州及びロシア国境における長期的な不安定の火種へと変えてしまった。
    12. 政府内の不安定性及び紛争によって引き起こされる正統な政治体制の転覆という先例は、より広範な領域に適用しうる。近東、中東、アフリア、南アジア、朝鮮半島に残る緊張の火種に加え、新たな「ホットスポット」が出現しつつあり、いかなる国家にも統制されていない地域が拡大している。紛争地域はテロリズム、国際犯罪、宗教対立、その他の過激主義の拡大の温床となっている。「イスラム国」と自称するテロ組織の出現及びその影響力の拡大は、若干の国々がテロとの戦いの領域で堅持している二重基準政策の結果である。
    13. 核保有国の増加、化学兵器の拡散及び使用、諸外国による生物兵器の保有の事実に関する不確定性及びそれらの兵器の開発及び製造ポテンシャルの獲得のリスクが残存している。ロシアの隣接国家において米国の軍事生物研究ネットワークが拡大している。
    14. 特に内政状態が不安定な国における危険な物質及び材料の物理的な保管体制の危機的な状態及び制御されていない通常兵器の拡散により、それらがテロリストに入手される可能性が高まっている。
    15. 社会の認識を操作することや歴史を歪曲することを含めて、情報通信技術を地政学的な目的を達成するために用いようとする若干の国々の意図により、グローバルな情報空間において強まる敵対が、これまでになく国際情勢の性質に影響を与えるようになっている。
    16. 情報通信技術及びハイテク技術の使用を含めて、非合法活動の新たな形態が出現している。制御されない移民及び非合法移民、人身売買、麻薬流通及びその他の国境を越える組織犯罪に関する新たな脅威がさらに深刻化している。
    17. 世界の人口状況、環境問題、食料安全保障問題が複雑化している。真水の不足及び気候変動の影響がまずます顕在化している。多くは従来は知られていなかったウイルスによる新型伝染病が拡散している。
    18. 経済プロセスにおける政治的要因の影響が拡大しており、個別の国家的な経済的措置、金融手段、通商・投資・技術的政策を自らの地政学的課題を達成するために適用する企みが国際的な経済関係のシステムを弱体化させている。世界の経済及び金融システムの不均衡な構造、増大する国家債務、エネルギーの市場価格の変動により、大規模な金融・経済危機が再来する高度のリスクが残存している。
    19.  国際的な不安定性に対応するために国家はますます自らの域内における事象に責任を持つようになっている。地域的・サブ地域的な貿易その他の経済的合意が、危機的な減少から自国を保護する最重要の手段の一つとなっている。地域通貨の利用に対する関心が高まっている。
    20. ロシア連邦の国家安全保障上の脅威を防止するために、ロシア社会の体内的な結束の強化、社会的安定の確保、民族間の合意及び宗教的寛容、経済における不均衡な構造の解消及びその近代化、国防力の向上が焦点となっている。
    21. ロシアの国益を保護するため、代償を伴う対立(新たな軍拡競争を含む)を排したオープンで合理的かつプラグマティックな対外政策が実施されている。
    22. ロシア連邦は、国際法の原則、諸国間の望ましく対等な関係の確保及び諸国民の相互尊重並びにその文化、伝統及び利益の多様性の保存の原則に基づいた国際関係を推進する。
    23. 国際安全保障の領域において、ロシアは第一義的に政治的・法的制度及び外交・平和維持メカニズムの利用に依拠する姿勢を維持する。国益の保護のための軍事力使用は、用いられた全ての非攻撃的な性質の手段が効果を発揮しない場合に限られる。

第3章 国益及び戦略上の国家的優先課題

    1. 長期的な将来における国益は以下のとおりである。
  • 国防の強化並びにロシアの憲法体制、主権、独立、ロシア連邦の国家的及び地域的な領土の一体性の不可侵性
  • 国民の結束及び政治的・社会的安定性の強化、民主的制度の発展、国家と市民社会の相互作用メカニズムの改善
  • 生活水準の向上、国民の健康増進、安定的な人口発展の確保
  • 文化、ロシアの伝統的な精神的・道徳的な価値観の発展の維持
  • 国民経済の競争力向上
  • 多極世界において戦略的安定性と相互のパートナー関係を助長するために活動する、指導的立場を有する世界的大国としてのロシアの地位の確立
    1. 国益の確保は、以下に掲げる戦略上の国家的優先課題の実現を通して実施される。
  • 国防
  • 国家的・社会的安全保障
  • ロシア国民の生活水準の向上
  • 経済成長
  • 科学技術及び教育
  • 保健
  • 文化
  • 生態系のエコロジー及び合理的な資源利用
  • 戦略的安定及び対等な戦略的パートナーシップ

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