ロシア連邦軍事ドクトリン(第1章・第2章)


ロシア連邦軍事ドクトリン

(2014年12月25日、大統領令2976号により承認)

第1章 総則

  1. ロシア連邦軍事ドクトリン(以下、「軍事ドクトリン」という)は、ロシア連邦の軍事的防衛に関する準備及び軍事的防衛に関し、政府が公式に採択した観点を系統的に示すものである。
  2. 軍事ドクトリンでは、ロシア連邦に対する軍事的危険及び軍事的脅威に関する分析及びその同盟国の利益を基礎とし、軍事政策及び国防の軍事・経済的保障に関する基本規定を定める。
  3. 軍事ドクトリンの法的基礎は、ロシア連邦憲法、国際慣習法、国際法規範、ロシア連邦が国防、軍備管理及び軍縮の領域で結んだ国際条約、連邦憲法法及び連邦法並びにロシア連邦大統領及びロシア連邦内閣の発出する法規範的アクトである。
  4. 軍事ドクトリンにおいては、2020年までのロシア連邦長期社会経済発展概念及び2020年までのロシア連邦国家安全保障戦略の基本規定並びにロシア連邦対外政策概念、2020年までのロシア連邦海洋ドクトリン、2020年までの北極圏の発展及び国家安全保障確保のためのロシア連邦の戦略その他の戦略計画文書の関連規定を考慮する。
  5. 軍事ドクトリンにおいては、政治的、外交的、法的、経済的、情報その他の飛行劇的性格の手段を用いる可能性が尽きた場合のみ、自国及びその同盟国の利益のために軍事的手段を行使するとの原則を固守する。
  6. 軍事ドクトリンの規定は、ロシア連邦大統領のロシア連邦議会向け教書演説において具体化される。また、軍事分野の戦略計画(軍事計画)の枠内で修正されることもある。
  7. 軍事ドクトリンは、国防及び安全保障の分野における集権的な国家指導によって実現される。その実施にあたっては、連邦の法令並びにロシア連邦大統領、ロシア連邦の内閣及び連邦行政機関の発出する法規範的アクトに基づく。
  8. 軍事ドクトリンにおいては以下の用語を用いる。
    a) ロシア連邦の軍事的安全保障(以下、軍事的安全保障という):個人、社会及び国家の死活的に重要な利益が、軍事力の行使又はその行使のおそれと関連する外的及び内的な軍事的脅威から保護されており、軍事的脅威が存在しないか、又はこれに対抗する能力がある状態
    b) 軍事的危険:特定の状況下において軍事的脅威に発展しうるファクターが集中した国際的又は国内的関係の状態
    v) 軍事的脅威:敵対する主体間で実際に軍事紛争が発生する可能性並びにいずれかの国家(国家グループ)及び分離主義的(テロリスト的傾向のある)組織が軍事力の行使(軍事的強制)を行うための高度な準備状態にある国際的又国内的関係の状態
    g) 軍事紛争:国家間又は国家内の対立を、軍事力を用いて解決する形態(大規模紛争、地域紛争、局地紛争、武装紛争の全てを含む)
    d) 武装紛争:限定された規模の国家間武力衝突(国際武装紛争)又は一国の領域内における対立勢力間の武力衝突(国内武装紛争)
    e) 局地戦争:限定的な軍事的及び政治的目的を追求するために敵対国間の境界地域で行われる紛争であって、これらの国家のみの国益(領土、経済、政治その他)に関わるもの
    zh) 地域戦争:同一地域の複数の国家が、重要な軍事的・政治的目的を追求するため、国家の軍隊又は連合軍を用いて参加する戦争
    z) 大規模戦争:根本的な軍事的・政治的目的を追求して国家連合間又は国際社会における最大級の国家間で行われる戦争。大規模戦争は、武装紛争、局地戦争及び地域戦争に世界の複数の地域から相当数の国家が参加し、エスカレートした結果として発生しうる。この戦争には、参加国の持つ全ての物質的資源及び精神力を動員することが求められる。
    i) 軍事政策:ロシア連邦の防衛及び安全保障並びにその同盟国の国益を保障するために国家が組織し及び実施する活動
    k) 国家の軍事組織(以下、軍事組織という):政府指導部、軍事指導部、ロシア連邦軍、その他の軍、軍事編成及び機関、有事に設置される特殊組織(以下、連邦軍、その他の軍及び機関という)、それらの傘下にあって軍事的な方法で活動を行う者及び国防産業コンプレクスの集合体であり、ロシア連邦の軍事的防衛及びその準備に一体となってあたる。
    l) 軍事計画:軍事組織の発展、軍、その他の軍及び機関の建設及び発展に関する目的及び課題の実現並びにその適用と全面的な保障のための手順と手段に関する規定
    m) ロシア連邦の動員準備態勢:軍、その他の軍及び機関、国家経済、連邦政府機関、連邦構成主体政府の機関、地方自治体並びに一般組織が動員計画を実施する能力
    n) 非核抑止力:核兵器以外の手段によってロシア連邦に対する侵略を防止するための、対外政策上の手段、軍事的手段及び軍事技術的手段の複合体

第2章 ロシア連邦の軍事的危険と軍事的脅威

  1. 現在の段階における世界情勢の展開は、グローバルな競合、価値観の方向性及び発展モデルを巡る様々な分野での国家間及び宗教間の緊張、国際関係全般の複雑かによるグローバル及び地域的レベルでの経済及び社会的プロセスの不安定性によって特徴づけられる。新たな経済成長及び政治的求心力の中心への段階的な移行が進んでいる。
  2. 多くの地域紛争が制御されずに放置されている。ロシア連邦と国境を接する地域を含め、これらの紛争を軍事力で解決しようとする傾向が存在する。現在の国際安全保障アーキテクチャ(システム)は全ての国家に対して平等に安全保障を提供していない。
  3. 情報空間及びロシア国内領域における軍事的危険及び軍事的脅威が変化する傾向が生まれた。ロシア連邦に対する大規模戦争が行われる蓋然性は低下したにも関わらず、ロシア連邦に対する軍事的危険は増加している。
  4. 主要な外的軍事的危険
    a) 北大西洋条約機構(NATO)の軍事的ポテンシャルが増強されていること、国際法規範に違反したグローバルな役割が付与されていること、ブロックの更なる拡大を含めてNATO加盟国の軍事インフラがロシア連邦の国境へ接近していること
    b) 個別の国家及び地域における情勢が不安定化していること及びグローバル及び地域的安定が弱体化していること
    v) ロシア連邦及びその同盟国と隣接する国家の領域内(その接続水域を含む)において、ロシア連邦に対する圧力を目的とすることを含めた外国政府の兵員が展開(増強)されていること
    g) グローバルな安定性を弱体化させ、既存の核ミサイル分野の相互関係を破壊する戦略ミサイル防衛システムの配備及び展開、「グローバル攻撃」の概念の実現、宇宙空間への兵器配備の意図、精密誘導兵器による非核戦略システムの配備
    d) ロシア連邦及びその同盟国に対する領土要求及びそれらの国家に対する内政干渉
    e) 大量破壊兵器、ミサイル及びミサイル技術の拡散
    zh) 個別の国家による国際条約違反並びに兵器の禁止、制限及び削減に関して以前に締結された条約の不履行
    z) ロシア連邦及びその同盟国に隣接する国家の領域内において国連憲章及びその他の国際法規範に違反した軍事力の行使が行われていること
    i) ロシア連邦及びその同盟国に隣接する国家の領域内において武力紛争n火種及びエスカレーションが存在(発生)していること
    k) 国際的な対テロ協力が不十分な状況下でグローバルな過激主義(テロリズム)が増加していること及び新たに発生していること、放射性物質及び毒性物質を用いたテロが実行される差し迫った危険、国境を越えた犯罪組織の大規模化(特に非合法な武器及び麻薬の流通)
    l) 民族間及び宗派間の緊張の火種の存在(発生)、ロシア連邦の国境及びその同盟国の国境に隣接する地域での国際的な武装過激主義グループ、外国の民間軍事企業の活動、領土を巡る対立、世界の各地域に置ける分離主義及び過激主義の伸長
    m) 国際法に違反して国家の主権、政治的独立性、領土的一体性に敵対し、国際社会、安全保障、グローバル及び地位的な規模の安定性に脅威を与える活動を行うための軍事・政治的目的における情報通信技術の利用
    n) ロシア連邦に隣接する国家において、ロシア連邦の国益に脅威となる体制や政策を打ち立てること(正統な政府機関の転覆によるものを含む)
    o) 外国及びその連合国の特殊機関及び組織による、ロシア連邦を弱体化する活動
  5. 主要な内的軍事的危険
    a) ロシア連邦の憲法体制の強制的な変更、内政及び社会的状況の不安定化、ロシア連邦の政府組織の機能・重要な政府施設・軍事施設・情報インフラの妨害
    b) ロシア連邦の主権の弱体化、その統一及び領土的一体性の毀損を目的としたテロ組織及び個人の活動
    v) 国民に対する情報感化に関する活動。特に祖国防衛に関する歴史的、精神的、愛国的伝統の弱体化を目的として若い国民を狙ったもの
    g) 民族間及び社会的な対立、過激主義、人種的宗教的憎悪又は敵対の喧伝
  6. 主要な軍事的脅威
    a) 軍事的及び政治的情勢(国際関係)が激しく先鋭化すること及び軍事力行使の条件が生まれること
    b) ロシア連邦の政治指導部及び軍事指導部の活動が妨害されること、その戦略核戦力、ミサイル攻撃警戒システム、宇宙空間監視システム、核兵器貯蔵施設、原子力エネルギー施設、原子力施設、製薬及び医療産業施設及びその他の潜在的に危険性のある施設が破壊されること
    v) 非合法武装組織が設立され及び訓練されること、ロシア連邦及びその同盟国の領域内におけるそれらの活動
    g) ロシア連邦及びその同盟国に隣接する国家の領域における演習を通じた軍事力の行使
    d) 部分的及び全面的な動員、政府指導機関及び軍事指揮機関の戦時体制への移行を含む個別の国家(国家グループ)の軍の活動活発化
  7. 現代の軍事紛争の特徴及び特質
    a) 軍事力、政治的・経済的・情報その他の非軍事的性格の手段の複合的な使用による国民の抗議ポテンシャルの広範な活用と特殊作戦
    b)精密誘導型兵器及び軍用装備、極超音速兵器、電子戦兵器、核兵器に匹敵する効果を持つ新たな物理的原理に基づく兵器、情報・指揮システム、無人航空機及び自動化海洋装置、ロボット化された兵器及び軍用装備の大量使用
    v) グローバルな情報空間、航空・宇宙空間、地上及び海洋において敵領域の全縦深で同時に活動を行うこと
    d) 軍事活動を実施するまでの準備時間の減少
    e) 垂直的かつ厳密な指揮システムからグローバルな部隊及び指揮システムネットワークへの移行による部隊及び兵器の指揮の集中化及び自動化
    zh) 敵対する国家の領域内において、常に軍事活動が行われる地域を作り出すこと
    z) 軍事活動に非公式の軍事編成及び民間軍事会社が関与すること
    i) 間接的及び非対称的な手段の利用
    k) 政治勢力、社会運動に対して外部から財政支援及び指示を与えること
  8. 核兵器は核軍事紛争及び通常攻撃兵器を用いた軍事紛争(大規模紛争及び地域紛争)の発生を阻止するための重要なファクターに留まる。

第3章へ

第4章へ


「ロシア連邦軍事ドクトリン(第1章・第2章)」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です